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東京高等裁判所 昭和25年(ラ)16号 決定

本件抗告の理由の要旨は、原決定が、抗告人所有家屋が強制疎開によつて除却された際に、抗告人は本件土地の賃借権を放棄したといい、本件土地は都市計画として内閣の認可を受けた土地区画整理の区域内にあるとし、相手方は抗告人の賃借申出を拒絶するについて正当の理由があつたと認定したことはどれもこれもまちがいであつて抗告人はこれに承服しがたい、というのである。

東京都世田谷区三宿町百九十九番宅地百四十四坪四合八勺の内九十八坪(以下本件土地という)が相手方の所有であること、抗告人は昭和十年中から本件土地を賃借し、その全部を敷地として木造瓦葺二階家一棟建坪十八坪二階十二坪及び木造トタン葺平家一棟建坪二十六坪二合五勺を所有していたところ、昭和二十年三月中防空の必要による強制疎開によつて除却せられ、抗告人は本件土地賃借権を失つたこと(記録七丁申立代理人神谷作祥の陳述参照)、昭和二十二年十月十六日抗告人から相手方にたいし本件土地賃借申出をしたところ、相手方は同年十一月一日拒絶の意思表示をしたという事実関係は抗告人と相手方間に爭なきこと、一件記録によつて明かである。

右賃借申出が罹災都市借地借家臨時処理法第九條第二條第一項本文にあてはまることは明かであるが、これにたいする拒絶が正当な事由を有しないかぎり、他の者に優先して賃借権を取得することができる賃借申出たるためには、なお、前記第二條第一項の但書にあたらないことが必要である。

ところが、本件土地が前記申出当時都市計画として内閣の認可を受けた土地区画整理区域内にあつたことは原審における相手方、本人審問の結果によつて認められるから、本件土地上に建物を築造するには東京都知事の許可を必要とすることは、法令に定められるところであるのに、抗告人が前記申出をした当時建築許可を得ていなかつたのみならず、許可を得るためのなんらの手続をもしてなかつたこと、原審の裁判当時においても許可を求める手続に着手もしてなかつたことは、一件記録上明かである。從つて罹災都市借地借家臨時処理法第二條第一項但書の後段にあてはまり、抗告人のなした賃借申出はこれにたいして同法同條第二項及び第三項を適用すべき限りでない。即ち右申出から三週間内に拒絶の意思表示がなくても、正当の事由なく拒絶されても、抗告人は賃借権を得ることはできなかつたのである。ただし、本件においては、昭和二十五年三月二日建設省告示第一〇五号をもつて本件土地を含む地域について土地区画整理区域の指定の解除があつたので、その後においては建物築造について許可を必要としないことになり、前記法條但書にあたる障碍がなくなつたのであるから、抗告人の賃借申出に優先賃借の効力を認むべきだ、との論も出ないものでもない。ところで本件土地のうち一部分は昭和二十一年六月一日菊地惣治に建物所有の目的期間二十年の定めで賃貸してあつたが、右菊地は昭和二十三年三月ころこの地上に住宅を建築して、以來これに居住しており、他の一部分は昭和二十二年七月一日宇田川初之助に賣渡し、昭和二十三年一月三十日その旨の登記をしたという事実が一件記録によつて認められる。右の菊地の住宅建築、宇田川えの所有権移轉登記は、抗告人の賃借申出前の事情に由來するとはいえ、右賃借申出後になされたことであり、それは、抗告人がその賃借申出によつて本件土地の賃借権を取得しなかつたという判断を前提としてなされたものである、と解するを相当とし、また抗告人は賃借権を取得しなかつたと判断されたことは相当であつたといわなければならない。しかるにその後になつて、建築許可を要しなくなつたことによつて、抗告人の賃借申出が優先的な賃借権取得の効果を生ずるということになるならば、前記菊地並に宇田川は非常に大きな不利益をうけるのであるから、現在になつて建築許可不要となつたからといつて、抗告人に優先賃借権を認めることは結果においてはなはだ不当であつて、とうてい採用しがたい解釈である。

以上説明のように、抗告人の賃借申出は前記法律第二條第一項但書にあてはまるため、これにたいする拒絶に正当の事由を必要としないのであるから、相手方の拒絶は正当の事由があつたか否かに関係なく、抗告人の本件申立は理由がないのである。依つて抗告人の本件申立を却下した原決定は結局正当であつて、本件抗告は理由がない。

(裁判官 中島登喜治 小堀保 藤江忠二郎)

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